私は、1993年に秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場の養成所に入所した。
東京の養成所ではさぞかし、生き馬の目を抜く世界が待っているとひそかに緊張していたのだが、実際に行ってみると少人数のせいもあってか、あたたかな仲のよいグループといった感じで、訳あって皆より遅れて入所した私を優しく迎え入れてくれた。いささか拍子抜けしたのをよく覚えている。
演技基礎、体操、声楽、バレエ、日舞、狂言、その他様々なカリキュラムは私にとって初の経験となるものがほとんどだったので、非常に興味深かった。
人間がこんなにも身体で音を響かせる事ができるのかと、声楽の先生の大きくのびやかな歌声に驚いた。元来、バレエやジャズダンスといったものをやるのは気恥ずかしい事だと思っていたのだが、どうせやるのだからコソコソと小さくなってやる方が何となく情けなく、格好が悪いと思い、あえてノリノリでやってみるとなんだかひどく楽しくなり新たな世界が見えた気がした。日舞、狂言なども同様に楽しんでやる事でいろんなものを見つけた気がした。
自分の身体と心が変化していくのがとても面白かった。
入団後も常に新たなものを吸収して自分の世界を広げて行く作業は続いている。
「将来、どうしよう」
そんな風に考えていた高校2年生の夏に、たまたま青年劇場の「博士の愛した数式」を観ました。汗だくで目一杯舞台を動く役者さんに一気に惹かれ、この時の出会いを機に演劇の道を志すことにしました。専門学校を経て、改めて養成所で学んだ一年間はとても貴重な時間でした。
身体的な面は勿論、精神面での部分でも芝居との向き合い方にハッと気付かされることがとても多かったです。稽古だけでなく、一から小道具やセットの仕込みを劇団員と一緒に作り上げることが出来たこと、一人では芝居は出来ないということを痛烈に感じた一年間でした。
入団して早10年になろうとしていますが、養成所の一年間は今でも強烈に胸に残っています。
楽しいことをしたいなという軽い気持ちで演劇の知識も無く養成所に入ったのを覚えています。
まさにゼロから始まった演劇修行は私にとって経験したことのないものばかりで楽しいこともあれば難しく苦しいこともありました。ですが、講師の方々が丁寧に教えてくださり1人で抱え込むこともなく無事卒業することができました。
そんな私は今「きみはいくさに征ったけれど」という舞台に出演し各地を巡演しています。このページを見ているあなたももしかしたら出会っているかもしれません。演劇は見る側も創る側も豊かな心を育む力を持っています。一緒に豊かな心を育み楽しい時間を過ごしましょう。